おはようございます。
梅つま子です。
カズオ・イシグロを読みました。
『わたしを離さないで』。英語だと『Never Let Me Go』。
というか原作が英語なので、
日本語だと『わたしを離さないで』というほうが正確ですね。
日本語を読んでから英語を読みました。
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提供者」だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度……。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく。2016年、TBSドラマ化。
ドラマ化もされたので、話の内容は多くの人が知っているかもしれません。
私にとって初のカズオ・イシグロ作品でした。
薦めてくれた人が、
「余分な言葉がひとつもなくて精緻に作られた世界」と言っていたのですが、
なるほど、でした。
物語のなかを流れる時間の、静かで緩やかなこと。
登場人物の気持ちの描かれ方の丁寧なこと。
信じられないくらい目の細かい織物を、
小説の形で具現化したらこんなふうになるのかなと思うような美しい作品でした。
小説の好き嫌いは、物語が好みかどうか、でした。
素敵なキャラクター、心踊るシーン、友情や愛情の関係性、
忘れられない台詞があれば、それは私の大好きな小説の仲間入りをします。
『星の王子さま』、『アルケミスト』、『ハリー・ポッターシリーズ』は、
そうだからこそ、自分のなかに長く残る物語になったのです。
「好きか」といわれたらとても難しい。
悲しみの結晶みたいな物語でした。
だから「好きかどうか」と問われたら言葉に詰まります。
手元において何度も読み返したいかというと、
それはちょっと違う感じがする。
でも唯一無二の、あの物語の世界を経験できてよかったし、
いつかまた再読して、
自分がどう感じるかを確かめなければいけない物語のようにも思います。
翻訳もとてもよくて。
「ああいう意地悪はちょっと残酷物語よね」
『わたしを離さないで』p.20
という台詞。
「残酷物語」って何の英語を訳したものだろう?と気になっていたのですが、
"I suppose itis a bit cruel"
でした。
残酷、だけでもいいのにここに「物語」をつけるセンス…!
まるで最初に日本語が書かれたのではないかなと思うくらいでした。
これまでいくつかの作品の日本語訳、英語の原作をセットで読んできて、
これは好みだなとか、ここは私なら違う訳を探したいかも、
と思うことがあるわけです、いち日本語母語話者兼英語学習者として。
(もちろん日本語訳が大きな助けとなっており、日本語訳があったからこそ物語にいざなわれることできた事実には変わりはありません。)
土屋政雄さんの翻訳は、
「翻訳によってこういう仕事ができるんだ」
と目を開かれる思いがしました。
次は『日の名残り』を読むつもりです☆
今日もいい一日になりますように!